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甲府地方裁判所 平成6年(ワ)313号 判決 1998年1月16日

主文

一  被告は原告に対し、三九〇八万四四〇九円及び内金五六六万〇七三二円に対する平成六年八月二一日から、内金三三四二万三六七七円に対する平成七年一一月二三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  右一は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、五七〇三万一六四七円及び内金一〇五四万三九七二円に対する平成六年八月二一日から、内金四六四八万七六七五円に対する平成七年一一月二三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二争いのない事実

平成五年六月二六日午後九時一〇分ころ、山梨県中巨摩郡敷島町上福沢一二番地先(以下「本件現場」という。)において、原告と被告とが乗車していた原告所有の普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)が路外逸脱し石垣に衝突する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

第三原告の主張

一  本件事故当時本件自動車を運転していたのは被告であり、本件事故は、被告がハンドル、ブレーキ等を的確に操作して事故の発生を未然に防止すべき注視義務を怠った過失により発生したものである。

二  原告は本件事故により頭蓋底骨折、気脳症、脳挫傷、顔面挫創等の傷害を負い、平成五年六月二六日から同年九月五日まで山梨県立中央病院で、同月六日から同年一二月二五日まで湯村温泉病院でそれぞれ入院治療を受け、平成六年六月二八日まで同病院で通院治療を受けた。

右傷害に基づく損害額は次のとおりである。

1  治療費 四一〇、三一五円

2  入院雑費 二四〇、五〇〇円

3  休業損害 一、九二九、〇〇〇円

4  慰謝料 二、六〇〇、〇〇〇円

三  本件事故により本件自動車は大破し、修理不能の状態となったが、その損害額は四、九五〇、〇〇〇円である。

四  本件事故の結果、原告には、右手の五指の用を廃し、脳内に頑固な神経症状を残すとともに、顔面醜状痕の後遺障害が残った(平成七年一一月二二日症状固定)が、その損害額は次のとおりである。

1  逸失利益 三五、四八七、六七五円

2  慰謝料 一一、〇〇〇、〇〇〇円

五  よって、原告は被告に対し、本件事故に基づく損害賠償として、二及び三記載の損害額の合計額及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成六年八月二一日から、四記載の損害額の合計額及びこれに対する症状固定の日の翌日である平成七年一一月二三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四被告の主張

一  本件事故当時本件自動車を運転していたのは原告である。

二  原告は本件事故による本件自動車の破損について損害保険会社から保険金二〇〇万円の支払を受けた。

第五当裁判所の判断

一  本件事故当時本件自動車を運転していた者について

1  本件現場は南北に走る幅員六・四メートルの直線道路であり、本件事故当時、本件自動車は、右道路右側に平行して設置されている低い石垣を乗り越え、草が茂る田地(以下「本件草地」という。)を右斜め方向に走行し、前方斜めに設置されている石垣に前部を衝突させたが、その際、左側前部が右側前部より早く衝突したため、右回りの回転運動が生じ、それとともに上下反転運動が生じた結果、左側面部を道路右側の電柱の地上約二メートル付近の部分に激突させ、ほぼ仰向けの姿勢で停止した。本件自動車の前部及び左側面部は大破の状態であり、運転席ドアは、破損は少ないものの、ボディとの装着部分から後部へ行くに従って下がっているため、閉まらない状態であり、助手席ドアは凹凸状の破損があるほか運転席ドアと同様の状態であった。(甲第二号証の一ないし三)

2  本件事故の際、被告は、本件自動車から車外に放出されて、本件草地に転倒し、右鎖骨々折、全額部挫傷、前胸部擦過傷の傷害を負い、四日間の入院治療を受けた。(乙第五号証、被告本人尋問の結果、証人濱英子の証言)

3  本件事故直後、原告は本件自動車内におり、頭は助手席側に、足は運転席側にあったが、重症のため自ら車外に出ることができなかった。(証人小林輝男の証言)

4  以上の事実を総合して考察するに、自動車内での乗員の移動方向は、慣性の法則によって、力が作用した方向の反対方向と考えられる。前記1によれば、石垣に衝突した後、本件自動車は左回転運動をしたから、運転席乗員には右方向即ち運転席ドア方向に移動する力が働いた。したがって、本件自動車に乗車していた運転席委員は、本件自動車が石垣に衝突したときの衝撃により損壊した運転席ドアから車外に放出される可能性がある。助手席乗員にも運転席側に移動するような力が生じるが、車内の空間の広さとの関係から、助手席乗員が運転席乗員より先に車外に放出される可能性は極めて低い。そして車外に放出されたのは被告であること、本件事故により本件自動車の左側面部(助手席側)が大破していること、本件事故による傷害は、被告に比べ原告の方がはるかに重いこと、原告及び被告の負傷部位等1ないし3の事実を併せ考えると、本件事故当時被告が本件自動車を運転していたと推認することができる。

乙第四号証には、本件自動車内の血痕の付着状況及びその血液型の記載があるが、前記認定のとおり、本件事故の際、乗員が移動していること、流出した血液についても慣性が働くこと、本件自動車は反転しているため流出後の血液の移動がありうることに照らすと、前記認定を覆すに足りない。

二  責任

前記認定の本件事故の態様に照らすと、被告に第三、一記載の過失があったことを推認することができるから、被告は本件事故により生じた後記認定の損害を賠償すべき責任がある。

三  傷害

原告は本件事故により第三、二記載の傷害を負い、一八二日間の入院治療及び約六か月間の通院治療を受けた。(甲第一号証、第一七号証の三、乙第八号証の三一、三二)

これによる損害は次のとおりと認めるのが相当である。

1  治療費 四一〇、三一五円

(甲第一七号証の一ないし三)

2  入院雑費 二三六、六〇〇円

(一三〇〇×一八二)

3  休業損害 一、九二九、〇〇〇円

(甲第六号証の一ないし七)

4  慰謝料 二、五〇〇、〇〇〇円

四  物損

本件自動車は本件事故により大破し、修理不相当の状態となったが、その時価は四五〇万円である(乙第七号証の二五)から、これによる損害額は右金額と認めるのが相当である。

五  後遺障害

原告には、本件事故による負傷の結果、第三、四記載の後遺障害が残り(おそくとも平成七年一一月二二日に症状固定)、原告は後遺障害併合六級の認定を受けた。(甲第三及び第四号証、乙第八号証の二七、二八)

これによる損害は次のとおりと認めるのが相当である。

1  逸失利益 三一、七七九、五九七円

原告は症状固定時において二二歳であって、就労可能年数は四五年(新ホフマン係数二三、二三〇七)、平均月収を一九万円(甲第六号証の一ないし三)、労働能力喪失割合を六〇パーセントとして算出した。

2  慰謝料 一〇、〇〇〇、〇〇〇円

六  減額

原告と被告とは、中学校当時からのいわゆるバイク仲間であり、本件事故当日も誘いあって、勝沼町の直線道路で若者が行う「ゼロヨン」を見に行くことになっていたこと、原告は、加速性能が高い本件自動車を購入して間がなかったが、本件事故直前に、被告の希望により被告と運転を代わったことが認められる(原告及び被告各本人尋問の結果)から、信義則により、原告が本件事故によって被った損害額の二〇パーセントを減額するのが相当である。

七  結論

したがって、被告は原告に対し、三及び四記載の損害額の合計額の八〇パーセントから乙第七号証の一によって認められる支払済の保険金二〇〇万円を控除して算出される五六六万〇七三二円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである平成六年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに五記載の損害額の合計額の八〇パーセントである三三四二万三六七七円及びこれに対する平成七年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払う義務がある。

(裁判官 生田瑞穂)

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